福島合宿初日の最後に、特別養護老人ホーム「梅の香」を訪問し、施設長の大内さんからお話を伺いました。

大内さんからは、東日本大震災に伴う南相馬福祉会の経過や、相馬地方の介護を取り巻く問題点についてお話をしていただきました。

震災発生後、梅の香では津波による避難指示を受けて、利用者を文化センターへ避難させました。翌日には自施設へ戻りましたが、翌々日には再び他の施設へ移送することとなり、さらに8日後には横浜の施設へと避難しました。施設利用者にとって、複数回の移動は大きな困難であるにもかかわらず、行政による適切な避難計画がなかったために何度も非難することとなりました。大内さんがおっしゃるには、このような事態は地震発生より早い段階で、避難計画が作られていなかったことが原因であるようです。また、横浜の施設への移動までの間に、行政からの支援が何一つなかったことも問題の1つです。移動手段である乗り物もすべて、施設が保有するバスや、職員の乗用車を利用するしかなく、介護を必要とする施設利用者にとって、そのような交通手段による非難は非常に苦痛なことでした。今後このような問題が起こらないようにするためには、行政が、「いつ」「どんなとき」に非難するかを迅速に判断することが重要だそうです。

問題は震災発生直後にとどまりません。施設の再開に当たっても、介護従事者の確保も大きな課題です。現在でも、職員不足により、ベッドの稼働が十分ではありません。特に、夜勤・土日の人手不足は深刻であり、職員が集まりにくい傾向にあるようです。従事者だけでなく、サービス事業者も不足しています。経営上の問題から事業再開を果たせていないところも多く、再開しても赤字経営を続けている事業がほとんどです。
そのほかにも、入居施設の待機者の増加、離職者の増加なども、相馬地方の介護が抱えている課題の1つです。

今回のお話を聞いて、様々な課題が被災地の介護事業に重くのしかかっていることがわかりましたが、人々は決して下を向いてはいないことも実感しました。施設の方々は、上記のような課題から目をそらさず、いかにして事業再開するか、利用者のニーズを満たすかを常に考えていらっしゃいました。今回の震災であらわになった課題を一つ一つ考察し、今後同じような事態が起こることのないよう、また、介護事業に対して何か支援できることはないのか、解決に向けてしっかり考えていきたいと強く思いました。その一環として、被災地の介護事業の現状を、皆さんに広く知ってもらう目的を持って、当レポートで伝えさせていただきます。

大谷理夏