令和5年7月6日

 

本日のゼミでは、内閣官房参与(社会保障・人口問題担当)であり、内閣官房全世代型社会保障構築本部総括事務局長を務めてらっしゃいます、山崎史郎様にお越しいただき、「人口減少と『全世代型社会保障』―少子化対策、地域共生―」というテーマでご講演いただきました。

1940年代からの日本社会・経済の沿革や、少子高齢化の原因の複合性、かつては効果を上げていた日本の社会保障制度が現代においてはどのような状況にあるのか、現状の課題、そしてそれを踏まえたこれからの社会保障制度の展望、「異次元の少子化」についての展望などについてお聞きすることができました。

 

日本の家族制度の解体、またそれに伴い個人化が急激に進んだ現代において、旧来の申請主義を前提にした制度や、縦割り式の相談窓口だけでは、本当に助けを求めている人ほど、支援の必要性をなかなか外部に発信できない状況にあるという現実を、改めて実感いたしました。お話を伺う中で自分としては、今の社会は過渡期のただなかにあり、家庭の連帯を重んじる思想と個人主義が混在しているため、介護や子育て課題につき、前者をとっても後者をとったとしても、心にどこかわだかまりが残るような、どうすればいいのかわからず皆が模索している状況にあるのではないかと感じました。介護や子育てはできる限り自分たちの家庭の中で完結しなければ、薄情だ、という意見があります。ですがその一方で今は、人は慣習的な役割に縛られ(すぎ)ず、仕事や趣味などで自らの人生を全うしていくのがよしともされています。皆が仕事中心か、家族の世話中心か、というダブルスタンダードに苦しんでいます。

そのような二者択一を、個人の責任として選ばせない。世話をされる側も、望まないにもかかわらず社会から切り離されない。家族という紐帯を大切にする一方で、個人の尊厳・自由を実現すること、またその可能性をなるべくすべての人にもたらしていくことが、これからの日本の社会保障には求められていると私は感じます。そういった意味で、今回伺がった介護制度や年金などの社会保障制度の改革、その中でも地域的な社会的連帯の今一度の構築は、これからの人々の更なる幸福に、強く資するものだと感じました。

 

また、講演の中で、少子高齢化が進行する都度のターニングポイントで当時の知識人たちが鳴らしていた警鐘の、「たしかに鳴らされていた」という事実について、私は強く印象に残りました。

少子化の大きなターニングポイントの一つとしては、東南アジア諸国の台頭を危惧した際の日本的経営の改善(労働者の低賃金化、非正規化)があったそうです。その時企業、行政、マスコミのとったスタンスが、巡って雇用の不安定化に繋がり、今の少子化問題の一因になっているのだ、ということでした。

ただ、自分が疑問として思うのは、実際に当時の企業がその選択をしなければ、世論の通りに他国に商品の安さで負け、経済的に不利益を被る恐れも、全くなかったとは安易に言えないことです。今のコロナ禍での対応もそうですが、今、目前に危機が直面している状況において、何かをする選択をするのも、または先のことを考えてあえて耐える選択をするのも、非常に困難なことであると思います。

個々人は最善だと思う行動をとっていても、俯瞰した視点で見ると全体では不利益な方向に向かってしまう、合成の誤謬についてのお話がありましたが、自分がそういった中において常に「鳥の目」を持ち続けられるだろうか、と不安に思いました。だからこそこれからの我々は、自分で意見を精査し、耳を傾けつづければならないのだと、改めて感じます。

 

そしてそれは、少子化対策や地域共生社会づくり、政策の決定においても、繋がって同じことが言えると思いました。俯瞰的に物事を見て、他の世代・分野のことを考えることは、将来的に自分及び自分の大切な人を支えることになるのですが、いかんせん自分が今苦境に立たされていると感じている人は、そのような連帯意識を持つことは大変困難なことであると感じます。今の世の中は、そのように自己の境遇をとらえている人も、少なくはないと思われます。

 

また講演では、異次元の少子化対策につき、異例である「給付先行型」の措置をとる決断にふみきったことについて、お話がありました。自分はつい最近、ゼミの課題に関連して、様々な企業や人に国の少子化対策につきどのように思うか、お話を伺っていたところだったので、実際に政策を実行していく方の視点について、非常に興味深いお話を伺うことができました。

自分の身の回りの感覚としては、異次元の少子化対策について、異次元という割には施策が小粒なのではないか、などという意見がどうしても散見されます。しかしそれと同時に、皆さんは口をそろえて「どれだけいい制度があるからと言って、それ自体が子を持つ動機にはならない」という主旨のことを仰っていました。

また、山崎先生が述べられていたように、少子化問題の非常に困難な特徴として、たとえ適切な施策を施したとしても、すぐには効果が上がらない点があります。今から取り掛かっても、最低でも効果が出始めるのは30年後であり、今の施策は、今の世代ひいてはこの後の未来の世代に向けられているものであるとのことでした。

私はこのことから、政府と民衆との政策の捉え方にずれがあると、個人的に感じました。第一に、この施策が異例のものであることが伝わっていない点。第二に、今回打ち出された施策は「こんな制度があります、だからただちに産んでください」と今の世代に働きかけることが最大の目的であると捉える人も多いですが、そうではなく、これからの子供たちを見据えて制度を整えていく志向のものでもあることが、やはり伝わり切っていないと思われる点です。

産みたい人がまずは苦労をしない社会を作り、出産育児における障害をひとつひとつ取り除いていき、ゆくゆく人々が自然に結婚するような社会が、この国のめざすところであると私は思います。

 

ゼミ生の中には公務員を志したり、社会保障に携わる職種を志望したりするゼミ生が大変多いため、勉強になりかつ、これからの社会についての見方を今一度新たにする、大変得難い機会でした。

この度はお忙しい中お越しいただきまして、また貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

文:小林陽香