令和7年5月22日

感想

3年 柴田日菜子

 

本日のゼミでは、過労死問題に長年取り組んでこられた弁護士・川人博先生をお招きし、「過労死の歴史と現状、そして労働法の重要性」というテーマでご講演をいただきました。現場で労働者や遺族の声を聞き続けてきた立場からのお話は、今後社会に出て働く私たちにとって非常に示唆に富むものでした。

講演の前半では、日本における過労死の歴史的な経緯が紹介されました。戦前の女性労働者の実態から始まり、戦後の経済成長期、バブル期、そしてバブル崩壊後の人員削減による負荷の増加やメンタルヘルスの悪化に至るまで、社会構造に組み込まれた長時間労働の問題が詳しく語られました。特に、近年でも年間700~1100件の労災認定があり、120件以上が死亡事案であるという現実は、過労死が過去の話ではないことを強く印象づけました。

また、1991年に起きた電通社員の過労自殺事件をめぐる最高裁判決にも触れられ、企業には労働者の心身の健康を守る安全配慮義務があると明確に示されたことは、働くうえで知っておくべき重要な判例だと感じました。さらに、2007年の日研化学事件では、パワハラそのものが労災と認定され、労働時間に限らず職場環境そのものが問われる時代になっていることが伝えられました。最近では宝塚の事案についても言及があり、演者が「労働者」と認められるようになった背景には、こうした積み重ねがあることも学びました。

後半では、「なぜ今、労働法を学ぶ必要があるのか」というメッセージが繰り返されました。自分の命と健康を守るためだけでなく、将来他者を管理する立場になったときに、人権侵害を防ぐためにも必要であるという指摘には非常に納得感がありました。法学部に限らずすべての学生が労働法を学ぶべきという先生の主張には強い説得力がありました。

印象的だったのは、IT化による業務の効率化が、実際には労働の質的負担を増加させているという指摘です。テレワークの普及や情報量の増加によって、精神的なストレスや責任が個人に重くのしかかっている現状は、今後働く上での新たな課題だと感じました。また、「どれほど意義あるイベントであっても、それを支える労働者の命と健康が奪われてはならない」という言葉も心に残っています。イベント準備の現場での過重労働が批判される今の状況を踏まえた上での言葉であり、社会のあり方を問う重要な視点でした。

加えて、退職代行サービスについての話も興味深く聞きました。本来であれば法令や社内ルールが整っていれば不要なはずであり、サービスの存在は制度不備の裏返しであるという先生の指摘からは、「使いやすい制度設計」の重要性も再認識しました。

今回の講演を通じて、過労死は個人の問題ではなく、社会全体の構造や制度、そして意識の問題であると強く感じました。これから社会に出て働く私たちが、どんな環境で働き、どう生きていくかを考える上で、労働法の知識は欠かせないものであると実感しました。

お忙しい中、貴重なお話をしてくださった川人博先生に、心より感謝申し上げます。